スペインで衝撃を受けた、広島の常勝軍団『les bleus』のトレーニング

今まで見て来た練習の中で、大人も含めて、最も"強度の高い"練習が行われていた。

バーモントカップの広島県代表、全国大会でもベスト８まで勝ち進んだ、Les bleus(レ・ブルー)のトレーニングは、スペインで「衝撃を受けた」佐々木剛氏の"コンセプト"が詰まっている。

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「スペインに行って、あきらめがついたら、ヒデ(佐々木氏の長男)自身もどこかのチームに入れようと考えていた。スペインで気づいたことをやりたい。トレーニングしたい。でも無理だよなぁ･･･」って。「ある程度のレベルの子が集まらないとできないですから。スペインでは週に２回しか練習をしない。ヒデは日本で５回も６回も練習に行ってるけど、強度も、脳の使い方も、スペインの一回分もやっていない。スペインの子は練習が終わると倒れ込みますから」
「日本は同じ日に試合がたくさんあったり、練習時間が長かったりで･･･、30～50パーセントで流す癖がついてしまっている。100、ゼロ、100、ゼロのトレーニングがしたい。インテンシティの高い練習をしないといけない」

そんな練習がしたいけど、『無理だよなぁ･･･』と思っていたら、６年生のしんたろうがスポ少を辞めて帰ってきた。そこで「しんたろうが帰って来るならやってみるか･･･」と思って始めてみた。最初は『30点もできないだろう』と思っていたら、「半分以上はできていた。環境を変えれば適応できるんだと感じた。今までやってきたことも無駄じゃなかったと思えた」

スペインから帰って、「お父さんお母さんにも『スペインでこういうことを感じてきました。こういう練習がしたいんです』と家に集まってもらって、説明した」と言う。子どもたちにも「今まではサッカーを楽しんでもらえるように、考えてやっていたよ。でもこれからの練習はそうじゃない。本気で上手くなりたくて、相手をぶっ倒してでも勝ちたい、常に全力を出す人だけ来て欲しい」と伝えた。

Les bleusの改革。新トレーニングが始まった―。

Les bleusのトレーニング場のひとつ、MFP広島。屋外コート３面。アップスペースもある

◆パス＆トラップ、ドリブル

ピッチに入るとアップから。コーチはピッチの外で準備。電話がかかってくると電話にも出る。アップは子どもたちが主体で進行していく。

ストレッチが終わると、ピッチに六角形に置かれたマーカーの元、パス回しが行われていく。一個飛ばしにパスしてパスしたマーカーに移動。10mくらいあるだろうか。パスの距離は長い。パススピードも求められるので、パスは常に(早速だが･･･)"全力"となる。子どもたちの息がすぐに上がっていく。

トラップは"３種類"を意識しているという。前線にロングパスを出すように見せ(ディフェンスを下げさせてから)ドリブルに入るブラジル式、足元につけてすぐドリブルに入るアルゼンチン式、パスしやすい位置にボールを置くスペイン式、反対周りや、トラップの種類が指示され、練習が続く。最後はパスでなくドリブル。８分ほどして休憩。

◆シュート練習。ダイレクトプレー

お次はシュート練習。サイドから中央、中央からななめ後方に戻したボールをコーナー付近へ縦パス。最初にサイドからパスを出した人が走り込み、中央へ折り返しをシュート。パスは基本すべてダイレクト。全力で走らないと間に合わないパスが良しとされる。縦パス然り。中への折り返しのパスも然り。「スピード緩めちゃダメだろぉ」「ボール見てるから遅くなるんだよぉ」「強いボールを蹴れ！」つながってシュートまでいくのが少ないくらいだが、走るスピード、パススピード、常に"全力"が求められる。

◆切り替え、状況判断が求められる３対２～４対４

フットサルコートを横向き、サイドラインの中央にフットサルゴールが２つ、ゴールとして並べられる。ゴールと反対サイドから佐々木コーチがボール出し。お父さんお母さんの協力で、ボールが集められ、ボールはどんどん供給される。６つのマーカーで２つの四角形がつくられ、２チームがそれぞれの四角形に２人ずつ入る。ボールが入ったら、攻撃側がひとり加わり３人になり、３対２が始まる。サイドチェンジをしても良い。パスが５回回ったらシュートに行く。守備側が奪った場合もシュートに行く。

ボールが切れたらすぐに新しいボールが入る。常に切り替えと状況判断が求められる。

プロレスルール(手を使って押してヨシ、引っ張ってヨシ、倒してヨシ)なので、判断が遅たり、球離れが遅いとすぐにつかまる。パスを出した後もすぐに動き出すことが必然的に求められる。止まっていてはもらえない(潰されてしまう)。「ワンタッチでないとできない(ボールが回らない)」という練習だ。

◆キックゲーム

休憩後、キーパー対フィールドでPK(よりやや遠い？)合戦。子どもたちでルールを決めて「７本決めたらフィールドの勝ち」だが６本しか決まらずキーパーの勝ち。フィールド全員で土下座して再戦希望したが、２本目もキーパーの勝利。

◆２対２＋フリーマン５人

フットサルをフルコートで。２対２。フリーマンがゴールライン両サイドに１人ずつ。センターラインに１人。サイドライン両サイドに１人ずつの計５人。ポゼッションしながら、反対サイドのフリーマン（ゴール）を目指す。

サイドで受けるポジショニングがポイントの１つとなるが、そこに出すパスのスピードと精度が常に求められる。子ども同士でも「早いボールを頂戴！」という要求が飛ぶ。「ハーフを越えないと、反対側のゴールへパスできない」「ハーフ超えはドリブルだけ」と条件が変わりながら練習が続く。

途中、サポートのためにサイドを降り過ぎてしまう選手に対し、フリーズと修正が入った。修正も子どもたちに「どう治したらいい？」と質問。子どもたちに伝えさせる。

◆ゲーム

最後はゲーム。ここでもボールはひたすら供給される。ピッチに居る間は、休む間もなく"切り替え"と"状況判断"ことが要求される。プロレスルールなので、判断のスピードも常に求められる。その後、再び『キックゲーム』が行われ、練習は終了となった。

「スペインの練習は、やるだけで、何かを意識して取り組まないとうまくできないようになっているみたいなことはたくさん聞いていたんですけど、今思えば、聞き流してしまっていましたね。反省しました。実際に目の当たりにすると、『なるほど、これができないとこの練習うまくできないな･･･』と、練習の意味をたくさん感じることができました。何をさせたいのか？何に気づいた子がうまくできるのか？」

「日本だとできるところから逆算する練習が多いけど、逆なんですよね。つながったら入るけど、なかなかつながらない。つながったら凄い攻撃になる。スペインではプレーモデルが見えるんです。日本では見えない。ボールを渡して、渡された人が考えて･･･。組織として動いてという感じが見えないんです」

「新しい練習を始めて、まだ１、２ヶ月くらい。変化は試合でも、まだそんなに出てないかもしれません。ただ、あきらめなくなった。変なボールをなんとかしようとする癖がついてきたようには感じます。ラインボールに対する、パススピードも早くなってきた。基礎は上がってきたんじゃないかと思います」

◆エピローグ

「Les bleusができたのは、KSAキッカケみたいなところがある」。KSAとは、Kohdy Soccor Academy。「やまだたくとくんが一所懸命サッカーやっていて、チームを作って、そのチームがめちゃくちゃ強い。そんなとこと戦ってみたいなーという気持ちになって。あんな感じで子ども集めて勝手にサッカーすればいいんだな～と思って。そこキッカケです」
やまだたくとくんと、KSAのメンバーが主力となる大阪市ジュネッスFCは、バーモントカップを大阪府の代表として出場。決勝戦で、鹿島アントラーズジュニア(茨城県)との激しい点の取り合いを制し、見事に初優勝を飾った。ベスト８で散ったLes bleusのメンバーと佐々木氏はスタンドから、目標であり、憧れであり、サッカー仲間であるジュネッスの選手たちに声援を送り続け、共に決勝戦を戦い、優勝を喜んだ。

レポート・写真：北谷仁治