優勝への想い/日本×オーストラリア戦、キタケンレポート

優勝への想い

　勝ったことを除けば、良いところを見つけるのが難しい試合だった。ＡＦＣフットサル選手権、準決勝で日本はオーストラリアを３－０で下した。自国開催だった2007年以来の決勝進出は評価できるが、そのプレーは手放しで喜べるものではなかった。

「準決勝の１試合目に比べて、退屈なゲームだったと思います」。

　記者会見に表れたミゲル・ロドリゴ監督は落胆した表情で語った。日本戦の前に行なわれたイランとタイの準決勝は、若手主体のチームに切り替わったタイが、アジアの絶対王者であるイランを延長戦の末に５－４で下していた。

　この試合をミゲル監督は「ピュアフットサル」と表現した。素早いカウンターの応酬、豪快なシュートとゴール、パワープレーの緊張感など、これぞフットサルという要素が詰まった内容だったからだ。常々、「スペクタクルなフットサル」をしたいと話しているスペイン人監督にとっては、理想の試合だったのだろう。

　オーストラリアは予選リーグでイランに０－９で敗れている。準々決勝でクウェートに勝利してワールドカップ出場権を決めた後、涙を流す選手もいたようにチームの目標はあくまでも「ワールドカップに出ること」（ナイト監督）だった。「ワールドカップ」と「優勝」の２つを目標にしていた日本とは、モチベーション面で差があるはずだった。

　しかし、フタを空けてみればオーストラリア戦もキルギス戦と同様に難しい試合となった。

日本のスタメンは準々決勝から変わらず、ＧＫ川原永光、北原亘、木暮賢一郎、高橋健介、逸見ラファエル勝利。キルギス戦と同じように経験豊富なメンバーを送り込んだ。日本はドリブルとターンで方向転換をしながら、テンポ良くパスを回していく。３分には中央・木暮→左・北原→裏・高橋という形から惜しいチャンスも作った。

「相手はフィジカルがあるし、１発でチャンスを狙おうと思っても難しいので、ボールを回しながら、間でボールを受けたり、裏を狙ったりしようと話していた」（木暮）。

オーストラリアはアジアの中では唯一“イラン並み”のフィジカルを誇る。とはいえ、細かい動きや、一瞬のスピードに対してはハッキリ言って弱い。立ち上がり、オーストラリアは日本の速いパス回しに明らかに対応できていなかった。それだけにスタメンが出ていた頭の５分間で先制点がほしかった。

　風向きが変わったのはセカンドセットに交代した５分以降だ。村上哲哉が自陣後方で中にボールを動かそうとしてミス。これがゴール前にいた相手への絶好の“パス”となってしまい、あわや失点のピンチを招いた。これで動揺したか、村上はその直後にもトラップでボールが足につかず相手ボールにしてしまうなど、イージーミスが目立った。

　この大会を通じて、村上は明らかにパス回しの“ブレーキ”になってしまっている。他の選手に比べて、技術面でワンランク落ちるので、テンポ良くパスがつながっていても村上のところで止まってしまうシーンも少なくない。もちろん、身体を張ったディフェンスや、ミドルシュートの強さが村上の大きな魅力だが、自分たちがボールを持っているときのプレーには課題が残る。

　前半、日本はいくつかの決定的なチャンスを作ったが決められず。ミゲル監督は記者会見で記者に「あなたでも決められたでしょう」とジョーク交じりに話したように、ゴールまであと１メートルというところで打ったシュートが外れてしまう場面もあった。

　後半６分過ぎ、ミゲル監督は木暮、逸見、仁部屋和弘、高橋という「フィクソ抜き」の攻撃的なセットを投入。木暮が最も守備的な選手という、リスクをかけた選手起用が得点につながる。

後半９分、高橋が間に入った逸見にパスを通すと、逸見がファーサイドへパス。ここにいたのは木暮！　ダイレクトで冷静にＧＫの股を抜いたシュートがゴールネットを揺らした。

「亘とか友祐もそうだけど、後ろから上がっていけば相手は当然つかまえづらい。リスクはあるかもしれないけど、勇気を持って前に行くことも必要だと思う」（木暮）。試合の状況を見抜き、ここぞという場面で大事な仕事をする木暮の戦術眼は、さすがというほかない。

　ミゲル監督が「１点目が決まってからはリラックスしてプレーできた」と語ったように、後半12分に北原が小曽戸允哉とのワンツーから２点目を決めると、最後はパワープレー返しから逸見が５試合連続となるゴールを決めて３－０。2007年の日本で開催した大会以来の決勝進出を果たした。

「決勝の相手がイランではなく、タイになったことで有利になったと思うか？」と聞かれたミゲル監督は、こう答えている。「確かに、そうかもしれません。ただ、現時点ではタイのほうが私たちよりも良いチームだと感じます。日本とタイの間には大きな差がある。それを埋めるにはかなりパフォーマンスを上げる必要があります」。

　タイは大幅な若返りを図って、チーム全体に勢いと一体感がある。それこそがイラン相手にジャイアントキリングを起こした最大の要因といっていい。ただ、ミゲル監督が言うほど「大きな差がある」とは思わないし、実力的にはおそらく同等だろう。そうなれば、勝敗を分けるのは「優勝に対する想い」（木暮）ということになる。

　最後に、ここまで思うような活躍ができていない、仁部屋のコメントで締めくくりたい。「ここで優勝するかしないかは、すごい大きいと思うので、個人がどうあれ勝利することが一番だと思います。フットサルをメジャーにするためにも、とりあえず優勝という結果を出したい。勝てば“何か”が起こるかもしれないので」。

　キルギス戦、オーストラリア戦、どちらも内容的には今一つ。それでも、結果は出したことは事実。もう、ここまで来たら、とことん結果にこだわってほしい。泥臭くても、格好悪くても構わない。「勝ったこと」が日本フットサルの未来を切り開くカギになるはずだから。

レポート：北健一郎

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