シュライカー大阪がブラジルの名門クラブ破る！(２)

●失速したA.A.B.B.

A.A.B.B.を率いる日系人監督のカズ・ナガミネ

　後半になると、一転、シュライカーペースで試合が進むようになっていった。シュライカーのアドリアーノ監督曰く、「後半はすべて前からプレスをかけることにして、それがうまくいった」とのことだが、A.A.B.B.のコンディション不足もあったハズだ。加えてA.A.B.B.は(ベンチ入り12名にも関わらず)前後半通じて、７～８名の選手で回していた。長時間出ていた選手の疲れは、溜まってしまったことだろう。

●イゴール、恐るべし！

　27分、シュライカーは18.松宮が後方から縦に入れたパスがカットされ、A.A.B.B.がゴレイロと１対１のチャンスを掴む。しかしこれをシュライカーの新守護神・イゴールがブロックして事なきを得る。エビーニョのドリブルも武器になりそうだが、イゴールの方はゴールマウスに立つ、存在感から違っていた。このシーンのように、シュライカーがイゴールに救われる場面は、シーズンの中でも数多く見られることになるだろう。

　イゴールの良さは守備だけではなかった。いや、むしろ、この日、守備で見せたのは27分のシーンぐらいだったが、攻撃での貢献度が大きかった。スロー、セービングともに精度が高い。日本で「足が使えるゴレイロ」とは、足技と、強いて言えばスルーパスを出せるぐらいのことを言うようなイメージがあるが、イゴールはロングキックまで正確だ。前線でフリーの選手を見つける。そこに正確なロングキックを当てる。というのは、日本のフィールドの選手でも、なかなかできていないプレーのひとつだと思う。

　32分、シュライカーの逆転弾はイゴールの足から生まれた。

　パワープレーに出ていたシュライカーは、ゴレイロのイゴールがシュート。これにゴール左に詰めた14.林が体に当てて、ボールをゴールに
押し込んだ。２－１、シュライカーが試合をひっくり返す。

　ただしこのゴールの前に、30分、A.A.B.B.はキャプテン10.マルチンが２枚目のイエローで退場となった。にも関わらずシュライカーはここで、パワープレーを使いながらも、２分間の内に、フィールド３人のA.A.B.B.からゴールを奪えなかった。前半の第２PKといい、相手が４人の２分間でのノーゴールといい、勝ったシュライカーにも宿題の残る試合となった。

●パワープレーの守り方とは？

　37分、シュライカーは、林、松宮、吉成とつないで、運動量の落ちたA.A.B.B.から３点目を奪う。A.A.B.B.は溜まらずパワープレーに出るが、前半パワープレーをした10.マルチンは退場となってしまい、もう居ない。ここではドリブラーの７.アンドレが代役(？)を果たしてのパワープレーとなった。

　２点のリードを奪ったシュライカーではあったが、ここではやや「守りきろう」という気持ちが強すぎたのではないか？

　ボールを奪っても、カウンターやキープを選択せず、簡単にクリアに蹴り出してしまう場面が個人的には目に付いた。フットサルにおいてプレーに「リスクをかけない」重要性についてはわかっているつもりだが、時間を進めるにしても、つなげるところは、クリアよりも、キープやパスをつないだ方が良いハズだし、そういう姿勢がないと、相手に"恐さ"も与えない。相手がリスクをかけてきているということは、一転、大きなチャンスが生まれる時間帯でもあるハズなのだから。

●２点はおまけ。シュライカーの完勝

　シュライカーは39分、パワープレーのボールを奪って、14.林がゴールを決め、４－１とする。ボールを奪った後、A.A.B.B.ゴレイロがスリップしてしまったのを見逃さず、冷静にゴールに流し込んだゴールだった。残り時間は「01:06」で３点差。この時点で試合を決める、決定的なゴールとなった。

　残り32秒と、残り14秒に、シュライカーは失点を許し、最終的には３－４とされた。しかし２点は勝敗が決してからのおまけみたいなモノ。40分間通じての集中力維持という点では課題と言えるかもしれないが、３点リードの時点で時間が３分残っていたり、リードが１点差だったら、またシュライカーの守り方、集中度も違っていただろう･･･。

●勝敗を分けた要因は？

　勝敗を分けたのは、後半、A.A.B.B.の運動量が落ちたことが大きいと思う。シュライカーの前プレが効いたこともあるだろうが、個人的にはA.A.B.B.のコンディションの問題の方が大きかったのだと思う。加えて、キャプテンの10.マルチンの退場が響いた。
　ただ、A.A.B.B.の運動量が落ちたのは少ない人数で回していたためであり、この点については、総合力(＝選手層)で、シュライカー大阪らがA.A.B.B.を上回ったとも言ってしまえる。

　個人的には特に前半、ジャッジの基準について、A.A.B.B.が戸惑った(というか、対応を入れなかったのがマズかった)と思う。この日のジャッジは厳格で、特に第２審判の韓国人レフェリー・キムさんはイエローをバシバシ出した。両チーム、試合を通じて７枚のイエローカードが出たほど。おそらくサンパウロ州リーグではお互い激しいボディコンタクトが"日常"で、A.A.B.B.にしてみれば、普段はファウルと取られないファウルも多々取られたという思いあったのではないか？
　カズ・ナガミネ監督は試合後「それはどこでやっても同じこと。その中でやっていくしかない」というコメントに留めたが、前半、７つめのファウルを警告する笛が鳴った瞬間、ピッチに居る４人のフィールドが一斉に両手を挙げたのが印象的であった。

●大阪、今季も好発進

　チームつくり中のため、どちらかと言えば、A.A.B.B.よりコンディションが悪くてもおかしくない大阪だったが、内容的は完勝と言えるゲームだった。アドリアーノ監督が「去年までのベースがあったことが大きかった」と語った通り。アドリの元で、ぶれずにチームづくりをしてきたひとつの"結晶"と言える、ブラジルチーム撃破だったのではないか。課題も残ったが、この時期ならチームを強固なモノにするためにも、テーマのひとつやふたつもあった方がいい。

　「いいテストになった。勝ったことで、リーグに向けてモチベーションも上がる」

　シュライカー大阪が、これ以上ないシーズンの好スタートを切った。

得意のドリブルで活躍したエビーニョ。サポーターからは早くも「エビちゃん」と呼ばれていた

審判に食い下がる11.パウロ。この日の基準は大阪優位に傾いたとも言える

逆転ゴールを決めた14.林。イゴールからのシュートパスをゴールに押し込んだ

A.A.B.B.後半のパワープレー。前半の時間を使うパワープレーほどのインパクトはなかった･･･

サポーターにお礼に行くシュライカー大阪。Fリーグ開幕が待ち遠しい結果となった

レポート・写真：北谷仁治